加齢とともに記憶量の低下を自覚することが多く、覚えられない、忘れやすいなどを自覚するようになる。物忘れの自覚は高齢者では男性8.8%、女性11.3%で、年齢が上がるほど高率になっている。脳細胞が障害されて認知症になると、記憶障害のほかに判断力低下、認知障害、行動障害などが現れ、日常生活に障害を生じて援助が必要になる。
認知症
知能低下の一種で、知能が発達し完成した成人後に、脳の障害によって低下したものである。アミロイド沈着、脳萎縮、神経原線維の出現などがみられるアルツハイマー病(「アルツハイマー型認知症)、脳血管性認知症、脳疾患による二次性認知症、および特殊な非アルツハイマー病型変性認知症(前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症)などがある。
健忘症候群
脳の器質的疾患による記憶障害を中心とする症候群で認知症やせん妄を除外できるものである。一般に突然発症する。経過は基礎疾患によって異なるが、回復傾向に乏しい。せん妄は、意識障害のうちの認識機能の障害に属する。急性・一過性に経過し、覚醒して活動しているが、認知機能障害に精神症状が加わって多弁他動となり、幻覚、錯覚、妄想、情動障害、知覚障害などを生ずる。正しい思考や判断ができない。
健忘症候群の原因は、通常は、間脳ないし内側側頭葉の両側性の病変に伴って発症する。片側のみの病変でも軽度の同様の症候が認められることがある。原因にはウエルニッケーコルサフコ症候群、脳梗塞(広大脳動脈領域)、頭部外傷、無酸素脳症。一酸化炭素中毒、単純ヘルペス脳症、第三脳室周囲の脳腫瘍、結核性髄膜炎などがある。健忘症候群とは別に、器質的病変は明らかでないが健忘症状を主徴とするものに、一過性全健忘、ヒステリー性健忘などがある。
健忘の内容としては、順行性健忘と逆行性建忘の両方がおこる。近時記憶(短期記憶)より遠隔記憶(長期記憶)ほどよく保たれる傾向がある。ほとんどの場合に見当意識障害をきたす。